国際学生会議の最終本会議が、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催 (02/09/2018)

 世界の30ヵ国から来た学生たちと日本の学生が国際交流とディスカッションを行う国際学生会議が、8月25日より一週間にわたり、世界が直面している課題についての議論や交流活動を、日本の各地で行った。最終日の9月2日に「ファイナルフォーラム」という形で成果を発表し、元国連事務総長特別代表で日本国際平和構築協会の長谷川祐弘理事長に評価をしてもらい、最終セッションで基調講演を行ってもらった。(馬淵将明、岡部エミリー)


2018年9月2日 国際学生会議各分科会の提言発表


Table 1:
「異性愛中心主義」と題して、性的マイノリティーに対する偏見の強い現在の社会を、誰しもが受け入れられる社会へと変革すべく、教育の視点から解決策を提案した。


 レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、またその他の性的少数派は(LGBT+)数十年前から世界中で数多くの取り組みが行われているにもかかわらず、異性愛中心主義のしきたりによって、差別を受け続けている。異性愛中心主義とは異性愛が唯一の正しい規範として物事を捉えるシステムや文化のことで、このシステムの影響で「普通」から外れた人々が軽視されてしまっている。そこで、テーブル1は学校が性的指向や性自認に左右されることなく、すべての人々を喜んで迎え入れる場所にすることを目標に提言を行った。彼らの提言の根幹はシンプル且つ効率的な先進的カリキュラムの導入である。また、現行のカリキュラムや教育の設備へとその提案を生かすためには、初等教育において大きな影響力を持つ先生たちへアプローチするべきだと彼らは考えた。人々がお互いのあらゆる違いを尊重すれば、異性愛中心主義は無くなる。これが彼らが目指す究極のゴールである。


Despite numerous widespread movements around the world during the past few decades, the LGBT+ community still face discrimination in a society where heteronormativity rules as the authoritative discourse. Heterosexism is a system or culture based on a view that sees heterosexuality as the only right norm and therefore superior. This system has become the foundation of many societies, neglecting or marginalizing those who fall outside of the norm, even in our schools. Therefore, Table 1 of the 64th International Student Conference is fighting for a future where schools are a place that welcomes everyone regardless of sexual orientation and gender identity. Their proposal aims to be a recommendation of simple yet effective practices that can be applied into the current curriculum and schools’ facilities, using the discretionary power that teachers have in primary education. When we are respectful of the differences among all of us, heterosexism will no longer exist.


Table 2:
民主主義と世界秩序に関して主にポピュリズムの台頭が引き起こしているグローバルレベルでの問題について、その根本的な原因と解決策を提案した。


 テーブル2では自由民主主義に関する問題の中でも特に、ポピュリズムの台頭に焦点を当てて議論を進めた。このことはあらゆる面において重大な脅威だと考えたからである。初めに、彼らはこの社会的趨勢の背景にはグローバル化と人々の中にある経済状況への不満が存在すると仮説を立てた。しかし、調査の実施後にはヨーロッパ民主主義体制各国における経済状況は想定していたほど悪くないことが分かった。実際には人々の中に現実とは違ったいわば錯誤がはびこっていたのである。そこで私たちは人々の錯誤を減らしていくための3つの提言を立てた。1つ目は報道機関の倫理に関する規定、次に我々の社会に存在する全く違う考えを持つ人々の間に対話を生み出す方法、最後にアメリカ合衆国での収入格差を解消するための経済的方策であった。


Table 2 decided to look at the rise of populism in liberal democracies. They identified that populism is a serious threat in many ways. Table 2 members assumed that the rise of populism happened because of globalization and the economic discontent of people. However, after conducting our research, we concluded that the economic situation in each western democracy is not as bad as people think and that there is a misperception of reality. Table 2 has come up with three policies to mitigate the misperception of people. The first policy deals with media literacy, the second one aims at creating dialogue between opposing groups in the society and the third one is an economic policy especially designed to tackle the income inequality specific to the United States.


Table 3:
遺伝子工学が今後実際にもたらすと予測される、親が子供の遺伝子を操作し、特徴を設計できるデザイナーベイビーズという技術について、その倫理的な観点から予測される問題について対策案を提案した。


 デザイナーベイビーだけでなく遺伝子工学の利用を取り巻く倫理的問題は数多く存在する。資本主義社会においては本来、あらゆる市民がこの議論に関与する機会が与えられるべきである。しかしながら、投票への無関心の広がりによって多くの政府が市民の声を反映できていないのが現状だ。そこで彼らは、日本のバーチャル民主主義の制度に多くの投資をすることで市民の政治への積極的参加を促すということに着目し、内閣府への政策提言を行った。その中で、台湾の制度に習い、合意を見つけ、市民による対話を促進し、一般大衆を教育することを促すバーチャル民主主義制度を日本でも構築することを提案した。これにより、今後この制度が実際にどのような役割を果たすかについて、政府の政策に直に影響を与えていくだろう。


There are many ethical questions surrounding the use of genetic engineering as well as designer babies. The essence of democracy insists that each member of civil society be given an opportunity to join this discussion. However, many governments fail to do so as seen by widespread voter apathy. Thus, our proposal to Japan’s Cabinet Office focuses on increasing the active participation of the citizens by encouraging a greater investment in Japan’s virtual democracy system. Based on Taiwan’s system, their vision is a virtual democracy system which encourages finding consensus, creating civilized dialogue, and educating the general public. Most importantly, the ideas that rise from this system must directly impact the policy making process in order for this system to solidify its role in modern politics.


Table 4:
21世紀において人間として求められるスキルとは何かを定義し、それを元に日本の教育制度の改革法を提案した。


 現代において必要とされるソフトスキルとは何でしょうか?この質問がテーブル4の議論の出発点となった。長期にわたる調査とそれらの調査の正当性を見極める中で、彼らは5つの能力が特に日本の教育システムにおいて必要であると結論付けた。その5つの能力とは(1)他者とのコミュニケーション、(2)創造力、(3)自信、(4)批判的思考力、そして最後に(5)論理的思考力となる。彼らは、これらのスキルを基として、それではいったいどのようにしてこれらの能力を養うことができるのかを明らかにすることを目的として提案集を作成した。それに加えて、調査の中で明らかになった、多くの先生が抱える問題である、ソフトスキルの評価の不確実性や定義の不明確性を文部科学省に対して提言するべく提言書も作成した。


“What are the soft skills that are needed today? This was the question that started the journey of table4. Out of extensive research and numerous validations, they listed down five skills that are specific for Japan’s education systems, namely (1) Communication with Others, (2) Creativity, (3) Confidence, (4) Critical Thinking, and (5) Logical Thinking. With these skills in mind, a ‘Suggestions’ booklet aimed at teachers that mainly talked about ways to teach these soft skills was drafted. Furthermore, from our research, they saw that teachers faced other problems, such as having no assessment for soft skills, or no set definitions. Thus, they also sent in a letter that addressed these problems to a MEXT representative.


Table 5:
宗教が原因で起こる様々なレベルでの対立について、いかにして人々に宗教に対する寛容性を植え付け対立による不幸を防いでいくか、提案した。


 テーブル5では宗教暴力の現象の性質そのものの分析に焦点を当てて議論を行った。取り扱ったテーマは、個人の信教や道徳を揺るがし、世界規模や個人規模どちらにおいても人々の生活に影響を及ぼす 複雑かつ多次元的なものであった。テーブル5の目標はこの問題を長期的なスパンで解決する適切な解決策を発見することであった。テーブルメンバーは、市民教育の枠組み内で行われる平和教育について考察し、その奨励や実行が21世紀において未解決である危機に対する一つの解決策となりうるもので、またこのプログラムの施行は主にバングラディッシュを拠点とする、と提案した。


Table 5’s work was aimed at analyzing the nature of the phenomenon of religious violence. The topic of the table is complex and multidimensional as it affects human life on a global and individual level and it questions one’s personal perception of religion and morality. Most importantly, Table 5’s main goal was to find an adequate solution, a response which would deal with the problem in the long-term. What the members examined was peace education within the framework of citizenship education. Its promotion and implementation was regarded as an answer to the pending crisis, which humanity deals with in the 21st century. The country, which this program is addressed to is Bangladesh.


Table 6:
主にロヒンギャでの難民問題にフォーカスを当て難民の受け入れ、生活水準の向上のために国家レベルでの対策を国際関係の視点から追求し提案した。


 ミャンマー西部のラカイン州に住むイスラム系少数派のロヒンギャ民族は、ミャンマー政府による迫害を受け続けており、事態の改善には今すぐにでも国際社会全体として手を打たなければならない状況である。テーブル6では、ロヒンギャ難民の受け入れ先として最も可能性がある国はインドネシアであると分析し、また受け入れ態勢構築の支援をすべく、日本やアメリカが主要な役割を担うような政策を提言した。また、この政策において、以上三ヶ国にもたらされる、外交的、経済的な利益についても焦点を当てた。


The Rohingya Muslims, part of an ethnic minority group in dominantly Buddhist Rakhine State located on the west of Myanmar, has been facing a severe persecution by Myanmar government, and there is an increasingly urgent need for countries to take up a more active role to relieve the crisis. Table 6 first singled out Indonesia as the country with the largest potential of hosting Rohingya refugees, and suggested the policy proposal in which Japan and United States are taking the main part of providing an support for Indonesia, pointing out the short-term and long-term benefits for all three nations involved, from the diplomatic and economic aspects.


長谷川祐弘 日本国際平和構築協会理事長・元国連事務総長特別代表

Closing Remarks to Future Leaders
「未来の指導者たちへのお言葉」


 世界30ヵ国から集まった学生さんの皆様は、この一週間、日本の各地を訪問して、日本の学生たちと生活をともにして、日本そして世界で進展している状況に関し話し会ってこられたと聞きました。難民や移民の増加や宗教対立の深まる中で民主主義と世界秩序がどうなるか、社会問題となった性的マイノリティーに対する偏見そして遺伝子工学が今後実際にもたらすと予測される状況において21世紀の教育の在り方などに関して討論を行ったと理解しております。このように著しく変遷する社会において、皆さんが将来に指導者となって活躍してもらいたいですが、そのためにはどうしたら良いか、自らの経験をもとにして語らい会いたいと思います。

 国際社会のリーダーシップの素質は、変換していく国際平和の本質と共に変化を遂げています。国際平和とは国連創設時には単に紛争のない状態を示唆していたものが、冷戦終結に伴い多様化しました。21世紀になってから、人権侵害や民族闘争などの紛争の根源的な原因を除去し、法の支配と民主主義の理念に基づいた政治体制が恒久平和の構築につながると思われてきました。しかしながら近年のグローバリゼーションの加速に伴い貧富の差の増大とともに、国家の内外での権力闘争が激化し、さらに民族や宗教戦争が増すようになり、結果としえ難民や移民が増加しました。米国でのトランプ政権の誕生で単独主義が唱えられ、ヨーロッパでも民族や宗教の違った多数の人々の移入に反対する傾向が出てきました。国際社会の多くの国々での指導者や市民も、自らを守ることに専心するという考え方や思考方法が現れてきました。自国や自国民の利益のみを追求することが至上命題であると思われるようになってきたと言えるでしょう。

 このような状態は17世紀のイギリスでの内乱を通じてホッブズは人間の自然状態を、決定的な能力差の無い個人同士が互いに自然権を行使し合った結果としての万人の万人に対する闘争(the war of all against all)であるとし、この混乱状況を避け、共生・平和・正義のための自然法を達成するためには、「人間が天賦の権利として持ちうる自然権を国家(コモンウェルス)に対して全部譲渡(と言う社会契約を)するべきである。」と述べ、社会契約論を用いて従来の王権神授説に代わる絶対王政を合理化する理論を構築した。ホッブズの国家理論は人間の欲望を基礎にしながら合理的に政治秩序を構築することで現実主義的な考え方を持っていたと言えよう。


 こうして強い指導者の台頭によって秩序が回復されたが、その後の1世紀半の間に特権階級の聖職者や貴族が頂点となって君臨した封建制度や絶対君主制度の下で国家の権力が一握りに人たちに握られた。権力の集中は乱用になり、政治が乱れ内戦や国家間の紛争が再発するようになった。このような世の中に生きた、イマヌエル・カントは、国家間での戦争がなくなり、永遠な平和を達成するには、第一には、君主ではなく平等で自由である国民が主権を保持し正義に満ちた社会を築くことであると指摘した。そして、個人の意思ではなく、法の原理に基づいた国家社会と、自由で平等な諸国家により結ばれる国際法のよって国際的社会が相互の信頼関係に基づいた平和を保つことであると説いた。


 カントの教えは、多くの哲学者により継がれ、1971年にはハーバード大学のジョン・ローズ教授が社会を規律する正義の原理は、自己の利益を求める合理的な人々が共存するために相互の合意によってもたらす構想と説明した。そして公正が社会では、政治的自由や言論の自由、身体の自由などを含む基本的諸自由を全員に平等に配分される。そして、社会的または経済的な不平等を機会の均等を図りながら、最も不遇な人々の利益を最大化する機会均等原理を唱えた。このような自由で民主主義の社会では、争えはなくなり、結果的に発生した社会的・経済的不平等に対しても、最悪の状況は可能な限り改善されるとする格差原理を説いた。国連ではこの公正な社会づくりと目指した国づくりを支援してきた。


 自由民主主義を掲げて、アラブの春を支援して、独裁国家を崩壊に導くことが出来ました。しかし、その過程で、想定していない新たな紛争が勃発し散乱す始めました。国連は現在、台頭してきた新たな紛争そして著しく変身する紛争の要素を見定め、新たな見方を方法で、紛争に対処しようとしております。その為には、紛争の当事者や相手を十分と知っておく必要があります。その上に、自らを知らなければいけません。紀元前500年ごろの中国の春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書、孫子に解説されているごとく、「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」といわれます。


 普遍的な理念や人間の行動規範の融和を保ちながら、現地の社会の伝統と価値観の統合が求められて来ております。指導者は自由と権利を自らの欲望の自制と他人への「思いやり」の気持ちで、平和構築支援に携わる者は、現地社会の自覚と独立の精神を尊重し、新たな時代における新たな平和構築を目指すべきでしょう。しかしながら、第1次世界大戦そして第2次世界大戦で学んだごとく、このようなアプローチでは、世界の恒久平和は訪れません。

 国際社会が境遇している現在の状況は、日本の徳川時代の末期の状態であり、今まで存続してきたウエストフェリア国家中心主義に基づいたアメリカの覇権で成り立ってきた国際統治構造が崩壊し新たなグローバルガバナンスの時代に突入する段階になったと見直すべきでありましょう。そして、世界のすべての国々と国民が基本的人権と人間の尊厳をあらためて確認し、正義と公正の源泉から生ずる義務を維持し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進することです。そのために、民族や宗教そして性別の違いに対する寛容性を維持し、善良な隣人として国際平和及び安全を維持するために力を合わせ、共同の利益を確保していくことです。

 そのために、国連の全加盟国が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」は格差の問題、持続可能な消費 や生産、気候変動対策など、先進国も含めたすべての国が取り組まなければならない普遍的(ユニバーサル)な課題です。その達成のために、先進国も途上国も含む各国政府や市民社会、民間セクター を含む様々なアクター(主体)が連携し、ODAや 民間の資金も含む様々なリソースを活用していく「グローバル・パートナーシップ」を築いていくことが不可欠です。

 平和構築の指導者の役割は、変換していく平和の本質と共に変化を遂げています。国連創設時には単に紛争のない状態を示唆していたものが、冷戦終結に伴い多様化しました。21世紀になってから、紛争の根源的な原因を除去し、法の支配と民主主義に基づいた恒久の平和の構築が、平和活動の任務となりました。近年の紛争の根源的な原因がイデオロギー化し、国際社会や関係諸国の指導者や市民の思考方法の変化と、普遍的な理念や人間の行動規範の融和を保ちながら、現地の社会の伝統と価値観の統合が求められて来ております。指導者は自由と権利を自らの欲望の自制と他人への「思いやり」の気持ちで、平和構築支援に携わる者は、現地社会の自覚と独立の精神を尊重し、新たな時代における新たな平和構築を目指すべきでしょう。

 東洋では「平和」とは平等な立場にある者が、お互いの立場を尊重して、和することを意味します。軍事や経済力そして特定のイデオロギーを用いて、他人や他国を制することではなく、相互理解と協調心を発揮して、武力を用いず問題を解決して紛争を未然に防ぐことであると言えよう。未来の指導者として、皆さんがこのような心構えを抱いていただければ幸いです。


第64回 国際学生会議
馬淵将明(Masaaki Mabuchi)実行委員長と岡部エミリー副委員長(Emily Okabe)

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