UNHCR駐日副代表の阿阪奈美氏は、強制移動を強いられる人々が世界で1億2300万人に達し、この10年で約2倍に拡大している現状を示し、危機の連鎖と気候要因の重層化が背景にあると指摘した。緒方貞子元高等弁務官の言葉「人道的問題に人道的解決はない——政治的解決のみ」を引き、真の解決は国連の場における多国間主義の下で導かれると強調。政府だけでは解決できない難民問題に市民社会・民間・自治体の参画が不可欠であり、日本が共同議長を務めるグローバル難民フォーラムでのリーダーシップに期待を述べた。
レポーター:井門孝紀
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発言全文
阿阪奈美 国連高等難民弁務官事務所 駐日事務所 副代表
ただいまご紹介いただいた、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の副代表を務めている阿阪である。
本日はこのような貴重なフォーラムにお招きいただき、心より感謝申し上げる。
UNHCRは、紛争や迫害などによって故郷を追われた人々――難民や国内避難民など――を支援・保護する国際機関である。
先ほどチャタジー氏が「第二次世界大戦後、我々は最も低い地点に達している」と述べられたが、その現状を象徴する数字を一つ共有したい。
現在、強制的に移動を余儀なくされている人々は世界で 1億 2300 万人に達しており、この数は 10 年前の約 2倍である。増加の傾向は止まらず、右肩上がりに上昇している。
その要因は、アフリカ、アジア、中南米、ヨーロッパなど世界各地で人道危機が連続的に発生し、一つの危機が終わらないうちに次の危機が起こるという連鎖である。さらに近年は気候変動など複合的な要素も重なり、人道危機の収束が難しくなっているのが現状である。
1億 2300 万人という数字は、日本の人口とほぼ同じである。このことからも、問題の深刻さを理解していただけると思う。
先ほど UNICの根本所長も触れられたが、UNHCRの元高等弁務官である緒方貞子先生が 1991年から 2000 年まで指揮を執られた際によくおっしゃっていた言葉がある――
「人道的な問題に人道的な解決策はない。人道的な問題に対しては政治的な解決しかない」。
まさにその通りであり、政治的な解決策は多国間主義・多国間協調のもとで、国連という場において導かれるべきものであると考える。
また、国連は政府代表による加盟国の場であるが、強制移動や難民の問題は政府のみで解決できるものではない。市民社会、民間セクター、自治体など、あらゆるアクターの協力が不可欠である。
UNHCRは 2019 年から「グローバル難民フォーラム(Global Refugee Forum)」という政府も含めたマルチアクターの協議の場を設けている。日本政府は 2023年から 2027年までの 4 年間、このフォーラムの共同議長国を務めている。
今年 12月にはジュネーブで中間レビューとなる「プログレス・レビュー会合」が開催される予定であり、UNHCRとしては引き続き日本政府のリーダーシップに大きな期待を寄せている。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げる。




